2012年4月11日水曜日

金子みすゞさんと旧民法

下関駅のホームには、金子みすゞの詩が飾られています。
駅だけでなく、唐戸商店街や街中いたるところに詩であふれています。
下関駅と仙崎駅との間には、観光列車のみすゞ列車も走り、長門市仙崎には金子みすゞ記念館もあります。

感受性の豊かな方だなと詩を読むごとに感じます。

しかし、詩を読んで楽しむだけに終わらないのが弁護士脳。
みすゞさんの詩やお写真を見ると、「監護権」の3文字が浮かんできてしまいます。

というのも、伝記を読むと、当時別居していた夫に対し、離婚しても娘を手元で育てたいと伝えていたのに、夫が親権ゆえの監護権を主張し引き取りにいくと言われて、抵抗のために自殺をされたとのこと。
仙崎の記念館にも、この話が紹介されています。


旧民法では、そもそも婚姻中の親権者は父親であって、父親の単独親権です(民法877条1項本文)。母親にはありません。
だから、離婚したときの子どもの親権は父親となるのが基本です。

戦後の新民法で、父親と母親の共同親権を定め(民法818条1項)、離婚の際に父親と母親のどちらか一方を親権者に定めるということで母親が離婚後の親権をとることができうる(民法819条1項)のは、現在の憲法24条両性の平等の思想のおかげです。


旧民法の812条1項には「協議上ノ離婚ヲ為シタル者カ其協議ヲ以テ子ノ監護ヲ為スヘキ者ヲ定メサリシトキハ其監護ハ父ニ属ス」とあります。

これを、新民法766条1項「父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議で定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。」と比較すると、一目瞭然です。


旧民法では、親権は父親にあることを前提に、協議離婚をするときに子どもの監護権者(育てる人)について話し合いで決まらなければ、父親が監護権者になるということなのです。

話し合いなどできようのない夫婦関係だったら、自動的に父親が育てる人になってしまうという制度であり、実際は、父方の祖母や伯叔母、または父の次の妻である継母が育児作業を負担していたのでしょう。


いまや、新民法の時代になって70年にもなろうとし、イクメンも当たり前になってきた時代からみると隔世の感があります。


2012年4月6日金曜日

インターネット・携帯電話での消費者詐欺

インターネット・携帯電話を利用した詐欺の手口は、

1 「無料」「お金がもらえる」「新品なのに安く買える」といった誘い文句で

2 そのサイト(パソコンであれ、携帯であれ)の利用料を払わせる

3 繰り返し、利用料を払わせるように「サクラ」や「BOT」(不正プログラム)が仕込まれている


という特徴があります。



○偽出会い系サイト
サクラをつかって利用料をどんどん払わせる
サクラとサイト内のシステムでメールのやりとりをするように仕向け、メールをするにはサイトのポイントを予め購入し、送信受信ごとにポイントがへるので、相手(じつはサクラ)とメールをしたいと思うと、お金を多額に使うことになるなど。


○有料メール交換サイト
偽出会い系サイトの応用編で、「会いたい」「悩みを聞いて欲しい」「お金をあげる」という言葉で誘って、後はいつ会えるか、誰と会うかという日程調整の連絡だけでひっぱってひっぱって、いつのまにか多額のポイントを購入し、意味のないメールをやりとりするなど。


○偽ペニーオークションサイト
新品の家電などを安く落札できるという形式のオークションサイトの中に、入札手数料を入札者に払わせる中、裏に「BOT」という不正プログラムが仕込まれていて、入札価格が自動的につり上げられ、無駄に入札手数料を支払わせた挙げ句、結局安く落札できないという被害を与えるサイトです。


特定商取引法ではまだ立法が間に合っておらず、今起きている問題に対応するとすれば、民法(詐欺・錯誤)・消費者契約法4条取消権で戦うことになります(参考・下記日弁連意見書)。
証拠の確保についても、サクラ等とやりとりしたメールがサイト内にしかないので、時間が経過したり利用を終えていると、消去されている又はサイトにアクセスできないため閲覧できないため、メールを保存できないなどの問題があります。



(参考)
・日弁連
「インターネットを用いた商取引における広告の適正化を求める意見書」(平成24年2月17日)
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/opinion/year/2012/120217_2.html

・国民生活センター
インターネットトラブル
http://www.kokusen.go.jp/topics/internet.html

「悪質な「有料メール交換サイト」にご注意!-「会いたい」「悩みを聞いて」「お金をあげる」というメールを安易に信用しないで!-[2010年9月1日:公表]
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20100901_4.html

悪質“出会い系サイト”における高額請求の被害-収入が得られると誘導されたサイトでメール交換- [2011年12月1日:公表]
http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20111201_3.html

交通事故にあったら

交通事故のご相談のことで、前々から考えていたことを。

1 交通事故にあってしまったら、ノートを一冊買っていただきたいです。
日記形式で、メモを書いておくと後から手続をするときに使えます。
訴訟にならなくとも、必要になることがあります。

症状は細かくつけておくといいです。

(記載例 ※もっと細かいほうがいいのですが、必要最低限バージョン)

●年●月●日、事故にあった。県道●号線を時速●km/h程度で走っていたら、側道から普通乗用車が突然飛び出てきて、自分の車の左側面にあたった。
すぐに警察を呼んだ。実況見分をした。

●年●月●日、加害者の保険会社担当者の●●氏が来たので、●●という書類を渡した。

●年●月●日、●●病院へ行った。頭(左側)が痛い。


2 事故にあった直後に、軽いけがだと自己判断せず、できるだけ早く病院へ行き、受診してください。できればCTやMRIを撮影しておくといいです。


3 百円ショップ・文房具屋さんで次の品を仕入れて下さい。

・A4サイズのファイルが入るファイリングアタッシュを5つくらい
ファイリングアタッシュの例→ http://www.sanadaseiko.co.jp/products/news/new_page41.html

・A4サイズの透明クリアファイルを20枚くらい買っておきましょう。
・A4の白い紙
・貼ってもはがせるのり


そして、

・自分が払っておいて後で加害者(保険会社)に請求する領収証を種類毎にクリアファイルにいれ、それごとファイリングアタッシュにいれます。

※(可能ならば)
A4の紙に貼ってもはがせるのりで貼り付けてもいいかもしれません。なお、領収証を重ねないでください。
その紙にいつ、どういう目的で支出したのかメモを残しておくとさらにいいです。

・保険会社から渡された・送られた資料をクリアファイルにいれ、領収証とは別のファイリングアタッシュにいれます。


・保険会社に渡した書類のコピーをまた別のファイリングアタッシュにいれます。



1のノートと、これらの資料があれば、交渉や訴訟のために弁護士に相談するときに、やりやすくなります。






2012年4月5日木曜日

子の監護に関するevaluation

家庭裁判月報平成24年3月第64巻第3号に、「米国家庭裁判所協会(Associtation of Family and Conciliation Courts.通称「AFCC」)が主催する第9回「子の監護に関するevaluation」に関する国際シンポジウムに参加して」(楠本新氏《大阪家裁部総括判事》、西川裕巳氏《最高裁事務総局家庭局第三課課長補佐》)というレポートが掲載されています。


AFCCは、アメリカ・カナダの家庭裁判所に関わる裁判官・弁護士・裁判所職員・サイコロジスト・メンタルヘルス専門職・メディエイター、が中心となって、家族葛藤の解決を通じて家族と子どもの生活改善を目指す協会だそうです。


子の監護のevaluationとは、裁判官が養育計画の決定を行うにあたって、裁判官の命令によって、親子関係や調査を実施するということのようです(注1)
日本では家裁調査官が担っている職務です。
この職務を担うChild Custody Evaluation(CCE)という専門職があることをこのレポートで初めて知りました。

どうも公務員ではなく、裁判所が事件毎に雇ったり、一方当事者が雇ったりしているとあり(p.88)、また、報酬としてevaluatorに支払う費用が高額に過ぎるので米国民の7割以上を占めるといわれる貧困層がevaluationを活用することができないとありますから(p.86)、民間の専門職のようです。

このCCEが作成する報告書を裁判所は信頼性が高いと評価しているとのことで、重要な判断材料とされているようです。

気になったのは、報告者の方々が出席されたワークショップにおいて、DVに対するCCEの評価の問題が指摘されていたことです。

例えば、ミシガン大学ソーシャルワーク専門大学院のダニエル・サンダース博士の発表では、専門職とりわけCCEは、女性がDV被害主張するときには、これを虚偽主張であるなどとして軽視し、DVが子に及ぼす影響を過小評価するおそれがあると警鐘が鳴らされていたとのことです(p.92-94)。

また、ニューヨーク法律扶助グループのクリス・サリバン氏からは、CCEの多くがペアレンティング・プラン(裁判所が決定した子の養育に関する詳細な取り決め)の安全性を予測する上で、過去の父母間の暴力については十分に考慮していないとの指摘がなされていました(p.94)。


アメリカでは、加害親に対しては教育プログラムへの参加を義務づけ、被害者に対しては自分と子どもの安全を確保できるようにサポートし、そのうえで、監督付の面会等で、加害者と子どもとの面会交流が、被害親と子どもにとって安全な状態で実施できるようにしているとのことです(注2)。

しかし、かかる取扱がなされるためには、そもそもDV被害があったことが認められなければなりません。
家庭内の密室でどこまで証拠が残るのか、難しい問題があります。
また、DV被害事実が認められたとしても、「安全な状態で実施」ということについて、CCEが、中立公平の立場とはいえ、当事者の事情を的確に把握してくれないと、新たな危険が生じてしまいます。

CCEの力量によってDV被害者の安全が左右されることになります。


現在、日本では、面会交流の実施、親権制度について、アメリカなどをモデルに制度や運用を変えていこうとしています。

その中において、DV被害(女性であれ、男性であれ)の主張が軽視されないようにという視点は必要です。
かなり細かい配慮を考えて面会交流の実施方法を決めていかないと、専門家による二次被害になりかねません。

「DV被害があっても面会交流を実施する」という制度・運用にするのであれば、相当の人手・時間・費用がかかり、専門家養成も必要になるだろうと思います。だからだめということではなく、制度・運用を変えるにあたって、そこまで考えた制度設計にしていく必要があるという感想でした。



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(注1)親子の面会交流を実現するための制度等に関する調査研究報告書http://www.moj.go.jp/content/000076561.pdf Ⅴ-1 アメリカにおける面会交流支援(原田綾子氏) p.193-P.226 のp.201
(注2)同 p.194