2010年2月13日土曜日

22週

「インドでは、出生前性別診断が法律で禁止されています。
女の子とわかると、女の子は嫁入持参金(ダウリー)で家計が壊れるとの理由で、堕胎の対象にされやすいから。」

という話を、インドに赴任した友人から聞きました。
インドのプラティパ・パシル大統領も女児中絶を追放するとわざわざ宣言しているので、日常化しているようです。

インドは中絶が広く実施されている国のようです。

日本では、母体保護法に基づく人工妊娠中絶が許容されています。
妊娠週数22週までは。

ちなみに、母体保護法をよく読むと、「22週」という数字はでてきません

母体保護法2条2項「この法律で人工妊娠中絶とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう。 」

の「生命を保続することのできない時期」の解釈を厚生省事務次官の通知で規定しているのです。


昭和53年11月21日付け厚生省発衛第252号厚生事務次官通知
(従来の「通常妊娠第7月未満」を「通常妊娠満23週以前」と表現を改めた)
(参考・沖縄県平成15年衛生統計年報


医学の進歩によって、早産の胎児の生存可能性が年々高まっているので
法律では具体的な数字で規定していないのでしょう。

事実婚形態の別姓夫婦の審判例(親権は母が、名字は父が)

●子の氏の変更許可申立却下審判に対する抗告事件(札幌高裁平成20年1月11日決定、原審判取消・申立認容(確定)家月60巻12号42頁、解説家月62巻1号44頁)

・両親は法律婚を選択していない
・親権者は母
・父は認知済み
・子どもの「氏」(名字)は父の「氏」で

という内容の別姓結婚を希望するご夫婦の事件です。

第一子は、
1 出生(母の「氏」で出生届。母を筆頭者とする戸籍に記載される。)
2 父が認知(母の「氏」のまま。)
3 民法791条1項に基づき家裁の許可を得て、子どもの「氏」を母の「氏」から父の「氏」に(父の「氏」に変更。戸籍は戸籍法18条2項に基づき、父の「氏」を称するので、父の戸籍に入る)

という手続を経て、父の氏を称しています。親権者は母のままで。

ところが、第二子は、「3」の民法791条1項の家庭裁判所の許可が原審では得られませんでした。
子の氏の変更許可審判申立ては却下されたのです(札幌家庭裁判所平成19年6月19日審判)

原審は民法791条1項の許可の判断基準について、
「原則として認められるべきものであるとはいえ、少なくとも、変更することに合理的な事情の存することが必要であると解され、恣意的であったりあるいは濫用となるような場合には許されないといわざるを得ない。」と述べた上で、合理的な事情がないと結論づけています。

その理由は、
・認知しているが親権者が母である
・親権者は未成年者の監護養育の法的責任全般を負っている
・父母らと一緒に生活しているものであることからすると、申立人が父と同居するのに格別支障となるような事情が存するとは窺われない
・あえて変更しなければならない合理的な事情はない
というものです。

民法791条1項では特に親権者が父母のどちらであるかを考慮するような規定はされていませんが、この原審判では、親権者が母であるということを重視しています。

例えば、全く別のケースで、両親が離婚して母親が旧姓に戻り、子どもの親権は母親がとった場合、子どもの氏を父の氏から母の氏に変更するため、民法791条1項に基づいて、この手続が使われます。このとき、実務上、親権を得た母と同一の氏に統一するためであるとの理由のみ記載しています。

「親権者と同一の氏への変更を認める」というのは民法791条1項の適用方法として定着していると思われます。
しかし、「親権者と異なる氏への変更は認めない」という理屈にはならないはずです。

かりに、親権の内容に「同一の氏を称することを求める権利」を含むと考えたとしても、権利者である親権者が権利行使を望んでいないときにまで家庭裁判所が同一の氏を称することを求めるだけの根拠が必要です。


この原審は札幌高裁で結論が覆りました(札幌高等裁判所平成20年1月11日決定)


高裁は、民法791条の趣旨について、「民法790条により形式的基準でいったん定まった子の氏につき、主として共同生活を営む親子間で氏を同一にしたいとの要請に配慮して、その他の利害関係人の利害感情も考慮の上で、家庭裁判所の裁量により他方の氏への変更を認めるところにある」と述べた上で、次の事情を検討しています。

・父母は長年の事実上の夫婦。共同生活を送っている。
・第一子は、父認知後、家裁の許可を得て父の氏を称している
・兄弟で戸籍上の氏を異にするのは望ましくない
・父には現在も過去も法律上の婚姻関係が存在せず、母以外の者の利益を害するおそれがない

具体的に利益衡量を行い、親権者が母である点については「氏の変更は親と共同生活を営む子の社会生活上の必要性から認められるものであり、親権者が母のままであることは、非嫡出子が、その氏を、共同生活を営む父の氏に変更することを妨げる事由とはなり得ない。」と判断し、原審を否定しています。


これまで「嫡出子でない子が認知した父の氏に変更」する手続は、父に母とは別の法律上の妻がいる場面で多く使われてきました。

この場合の審判例を梶村太市先生は「子(嫡出でない子)の利益重視型」「正妻の意向尊重型」「総合判断型」の3類型にわけ、昭和50年代以降は、総合判断型が増えていると指摘しています。
そして、澤田省三先生は、「新家族法体系」(新日本法規)において、

「子の氏変更は甲類審判事項であり当事者の紛争性が予定されていない事項」との前提の下、家裁の役割は利害の調整ではなく、「氏の変更が子の福祉に反しないか否かの後見的に判断にあるとみるべきではないか。嫡出家族の保護の問題はそれにふさわしい手続で調整されるべき」と指摘しています。
また、「戸籍の表示の方法とかその社会的利用度に対する過剰な思い入れについての検証の必要性」についても指摘しておられ、戸籍が原則非公開化されている現代で、「戸籍上の問題をこの問題の判断基準として用いることは既にして妥当性は失われているとみるべき」と論じています(「新家族法実務体系2」第4 氏名・戸籍・国籍 35子の氏の変更 p.583/新日本法規/H20.2.22刊)。


本件審判は、まさに「子の氏」の問題は「子の福祉」に沿って判断されるべきとの観点で説明することができます。
別姓婚を選択するなどの新しい家族観が育ってきた現代において、家裁は、当事者の価値観を重視しながら公権力を行使する必要がありますが、その中で、「子の福祉」は誰も無視できない思想として、利益衡量の核心にすえるべき基準と考えられています。妥当だと思います。

ただし、「母以外の者の利益を害するおそれがない」との利益衡量がなされていますので、重婚的内縁関係事案においては、本件審判を引用しても直ちに子の氏の変更が認められるとは限らず、これを補充する事情をさらに主張立証する必要があると思われます。

2010年2月7日日曜日

さようなら青山堂書店

下関に引っ越してきてから、この5年通ってきた
綾羅木の青山堂書店さんがお店を閉じてしまいました。

ご主人の独自の本棚作りが、とても好きでした。
毎回棚に並ぶ本の顔ぶれはかわっていました。

小説、哲学本、歴史本、岩波文庫、講談社学術文庫などの棚で立ち読みし、
どれを買おうか、棚と棚の間をぶらぶらしながら考えるのが
大事な気分転換でした。

最近は、
海岸線の歴史」(松本健一著、ミシマ社)
諸国物語」(ポプラ社)
英語の冒険」(メルヴィン ブラッグ著、講談社学術文庫)
海の都の物語(1)-ヴェネツィア共和国の一千年」(塩野七生著、新潮文庫)

など買っていました。

次にきたら、これを買おうと思っていたものもありましたが、
お店をおやめになられてしまったので、買わないままの本がいくつか残ってしまいました。

いままで、すてきな本を薦めていただき、本当にありがとうございました。



下関には売場面積の広い書店がいくつかできましたが、
何度も行きたい本屋になるかどうかは、書店店員の棚作りのやる気・レベル次第です。

下関図書館も今度新しくできるようですが、リクエストかけるなどして、いい図書館にしていきたいです。
レファレンスの力のある職員の方が常駐してくださいますように。

日弁連会長選に見る地方の意見の反映方法

日弁連の会長選挙は、選挙制度というシステムを考える上で、非常に興味深いものがあります。

弁護士として、誰が会長になるかという点も気になるのですが、それよりも、選挙の仕組み自体がおもしろいのです。

日弁連の会長選は、

1 投票総数の過半数を得ること
2 全国52ある単位会(東京や北海道には複数の会があるので、都道府県の数と一致するわけではない)のうち、3分の1の数(=18)の会の会員数の過半数を得ること

の2要件が必要です。


今年は、現執行部派の山本弁護士vs無派閥の宇都宮弁護士の戦いです。

1つめの要件は投票総数1万8361票のうち
山本:宇都宮=9525:8555
で、山本弁護士が過半数をおさえています。約1000票差。

2つめの要件では
山本:宇都宮=9:42(残る1会である宮崎は引き分け)
山本弁護士は、18以上を確保できませんでした。それどころか、42の会から拒否されてしまいました。

この2つめの要件によって、地方の支持を得られない候補者は会長になることができません。
単純な多数決は、民意を正確に反映していないという発想に基づき、非都会の意見を積極的に補充する仕組みです。

この9会は、東京や大阪などです。
都会は、弁護士人口が多く、派閥ががっちりと作られ、その組織票が堅いのだそうです。

そうして、東京と大阪の派閥トップが交互に会長に選ばれています。

地方の弁護士会の意見は日弁連に反映されるのか。
東京・大阪の先生方同士で、内輪うけな議論ばかりしてるんじゃないの…と、うがってしまいたくなるような状態です。


ちなみに、9会の中には山口も入っています。
54:43だったようで、

「さすが山口は保守だね」

なぞと、他県の友人からコメントをもらいました。
しかし、私には43も入ったこと自体が驚きです。
山口も案外自由なようです。

事務所サイトを改訂しました

鈴木法律事務所のサイトを作りなおしました。
http://suzukilaw.net/

よろしくお願いします。