2008年2月15日金曜日

法曹人口問題

日弁連の会長選挙を機に法曹人口問題が各新聞の社説で論じられています。
読んでいて,かなりの違和感を覚えました。
みなさんの弁護士についての前提イメージが「高額収入を得ている」ということに拘泥している印象を受けたからです。

「司法書士などの試験と同じく司法試験も法曹資格を得る試験にすぎず“生活保障試験”なぞではない」(東京新聞,2008.2.13)

実際に食い詰めた弁護士が大量に出れば,事件屋につけこまれる・とりこまれる弁護士も出てくるでしょう。
そういった弁護士が大量に発生しないよう,なんとか就職先を確保してあげなければと司法修習生の就職支援担当弁護士たちは,必死に現場で活動しています。
しかし,かなり無理して採用してもらっているようで,現在修習している方(新61期)の就職先の分は残っていないと言われている地域もあります。

外車を乗り回したい,高いレベルの生活をしたい。
そんな夢が実現できなくなったから法曹人口を減らせと弁護士たちは言っている。
各新聞の記者の方々はそう見ているように思えます。

司法修習生の就職活動の現場をもっと見てもらいたい。
とても取材したとは思えません。

試験合格者数減少を主張する弁護士たちは,生活保護を受給するぐらいなら事件屋と提携する-そういう弁護士を増やすわけにはいかないという三百代言防止・消費者保護の観点からの危機感が根底にあります。
現在,新人を採用している事務所も,過払金返還請求バブルがはじけたら,採用しなくなるかもしれません。今後就職できない修習生が何割かというレベルで発生するかもしれません。

弁護士という資格には様々な職権が与えられています。
事件屋提携弁護士が万が一増えれば,弁護士は職権を正当な目的で行使するという信頼がゆるがされるかもしれません。制度の根幹に関わることです。

地方にいると,弁護士が少ないことはよくわかります。
でも,人手が足りないのは,収益をあげられる業務ではありません。国選の刑事弁護や弁護士会務で人手が足りないのです。
「弁護士不足の危機を感じるこれらの業務は、手間がかかる割に報酬が低いところが共通する。『仕事にあぶれる』は有り体に言えば『もうかる仕事にあぶれる』なのか。」(日経 2008.2.9)

報酬が低いのではなく,低すぎるのです。手間がかかるのはいいのですが,とにかく低すぎる。
国選の刑事弁護の報酬は,諸外国と比べても2分の1以下で,これでは事務局職員の給与等経費を確保することも出来ません。公判前整理手続や裁判員裁判制度で手間は何十倍にもなっています。

「もうかる仕事」と「刑事弁護等公益的業務」の報酬があまりに格差がありすぎるのです。

裁判官がゲストに招かれた大学の講義で,こんな話を聞きました。

「人権活動をしたいなら,とにかく通常業務で通常の利益をあげること。そうでなければ,経済的利益を望めない事件を無理矢理訴訟にしたてて利益を得ようとしたりするなど,感覚が狂い,人権活動の筋を外してしまうことがあるから。」

弁護士になった今も,そのとおりだと思います。
日経は,弁護士業務の経済面について,もっと正確に分析してほしい。
一部の非常に高額利益をあげている事務所ではなく,普通の,中小企業の会社員並の収入の弁護士の経済状況を調べてほしい。法社会学の教科書にも載っていることです。

また,地方経済が横ばいから下向きである現状では,弁護士が地方で急激に増えても,パイは小さいままなので,みんなで貧乏になるだけでしょう。


弁護士過疎地域の人手も,公設事務所ができてもまだ足りませんが,誰でもよいわけではありません。
現在は,意欲のある有能な先生方がきてくださっているので大変助かっていますが
弁護士過疎地域では,どんな事件にも対応する能力があり,狭い地域社会でも対応できるコミュニケーション能力のある先生でなければ,ニーズには応えられません。

司法修習制度も徐々に短期化簡略化され,OJTといっても就職先もないのでは,質の心配をしないほうが非常識です。
地方であれば,いきなり独立しても周囲の事務所がフォローしていますが,大都会の場合フォローしてもらえるのか疑問です。

企業内弁護士,公共機関内弁護士のニーズも低いままで,裁判官や検事の数もあまり増えていません。
ニーズの点からも,司法試験合格者数は減少方向で検討すべきであると思われます。