2012年4月5日木曜日

子の監護に関するevaluation

家庭裁判月報平成24年3月第64巻第3号に、「米国家庭裁判所協会(Associtation of Family and Conciliation Courts.通称「AFCC」)が主催する第9回「子の監護に関するevaluation」に関する国際シンポジウムに参加して」(楠本新氏《大阪家裁部総括判事》、西川裕巳氏《最高裁事務総局家庭局第三課課長補佐》)というレポートが掲載されています。


AFCCは、アメリカ・カナダの家庭裁判所に関わる裁判官・弁護士・裁判所職員・サイコロジスト・メンタルヘルス専門職・メディエイター、が中心となって、家族葛藤の解決を通じて家族と子どもの生活改善を目指す協会だそうです。


子の監護のevaluationとは、裁判官が養育計画の決定を行うにあたって、裁判官の命令によって、親子関係や調査を実施するということのようです(注1)
日本では家裁調査官が担っている職務です。
この職務を担うChild Custody Evaluation(CCE)という専門職があることをこのレポートで初めて知りました。

どうも公務員ではなく、裁判所が事件毎に雇ったり、一方当事者が雇ったりしているとあり(p.88)、また、報酬としてevaluatorに支払う費用が高額に過ぎるので米国民の7割以上を占めるといわれる貧困層がevaluationを活用することができないとありますから(p.86)、民間の専門職のようです。

このCCEが作成する報告書を裁判所は信頼性が高いと評価しているとのことで、重要な判断材料とされているようです。

気になったのは、報告者の方々が出席されたワークショップにおいて、DVに対するCCEの評価の問題が指摘されていたことです。

例えば、ミシガン大学ソーシャルワーク専門大学院のダニエル・サンダース博士の発表では、専門職とりわけCCEは、女性がDV被害主張するときには、これを虚偽主張であるなどとして軽視し、DVが子に及ぼす影響を過小評価するおそれがあると警鐘が鳴らされていたとのことです(p.92-94)。

また、ニューヨーク法律扶助グループのクリス・サリバン氏からは、CCEの多くがペアレンティング・プラン(裁判所が決定した子の養育に関する詳細な取り決め)の安全性を予測する上で、過去の父母間の暴力については十分に考慮していないとの指摘がなされていました(p.94)。


アメリカでは、加害親に対しては教育プログラムへの参加を義務づけ、被害者に対しては自分と子どもの安全を確保できるようにサポートし、そのうえで、監督付の面会等で、加害者と子どもとの面会交流が、被害親と子どもにとって安全な状態で実施できるようにしているとのことです(注2)。

しかし、かかる取扱がなされるためには、そもそもDV被害があったことが認められなければなりません。
家庭内の密室でどこまで証拠が残るのか、難しい問題があります。
また、DV被害事実が認められたとしても、「安全な状態で実施」ということについて、CCEが、中立公平の立場とはいえ、当事者の事情を的確に把握してくれないと、新たな危険が生じてしまいます。

CCEの力量によってDV被害者の安全が左右されることになります。


現在、日本では、面会交流の実施、親権制度について、アメリカなどをモデルに制度や運用を変えていこうとしています。

その中において、DV被害(女性であれ、男性であれ)の主張が軽視されないようにという視点は必要です。
かなり細かい配慮を考えて面会交流の実施方法を決めていかないと、専門家による二次被害になりかねません。

「DV被害があっても面会交流を実施する」という制度・運用にするのであれば、相当の人手・時間・費用がかかり、専門家養成も必要になるだろうと思います。だからだめということではなく、制度・運用を変えるにあたって、そこまで考えた制度設計にしていく必要があるという感想でした。



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(注1)親子の面会交流を実現するための制度等に関する調査研究報告書http://www.moj.go.jp/content/000076561.pdf Ⅴ-1 アメリカにおける面会交流支援(原田綾子氏) p.193-P.226 のp.201
(注2)同 p.194